ニ部「優しい風」



登場人物

相田響(あいだひびき)―― サイレントチルドレンという特異体質をもつ。徹と共にバンドでヴォーカルと作曲を務めている。愛子の彼氏。

佐奈田愛子(さなだあいこ)――お嬢様。響のコトが大好き。響のバンドに詞を提供している。響がサイレントチルドレンであることは未だ知らない

木下徹(きのしたとおる)――響のバンドのギタリスト。響と愛子のことを快く思っている


     *この物語に登場する人物、設定等は全てフィクションです


7月の2人

 CD販売店、愛子が来たいっていったビル2階の邦楽コーナーの一角で。

 「えい」

 むぎゅ。

 CDを見ていたら後ろから急に抱きしめられた。

 「ヒ〜ビキっ」

 足音と気配でなんとはなく来ると思ったが…

 「どした?」

 「うんん、呼んだだけっ」

 ええい、このまま歩け。

 ずるずる。

 きっと周囲はバカップルと思ってるのだろう、もういい、好きに言ってくれ。

 
しかし俺も満更ではないのだろう…きっと。

 かわいいとは思っても鬱陶しいとは思わないのだから。

 「ねえねえ、響」

 「ん、なんだ?」

 俺の方が愛子より背が高い。

後ろから抱きしめられたまま無理矢理歩いているのだから愛子のつま先を引きずっている。  「なんか息が上がってるよ?響」

 「それはなぁ、たぶん愛子の腕が俺の首に回ってるからだろ」

 「ふぅん、そっか」

 笑顔の彼女はどうやら放す気がないらしい。

 
愛子と付き合いはじめて2週間、お互い時間を見つけてはこうして会っている。

 
付き合ってからわかったこと。

 愛子は寂しがりやで甘えん坊だということ。

 そんな面倒な愛子が好きだということ


 身体は根治を感じさせるほど快調だった。

 ―――反面、大きく戸惑った。

 眠い、空腹にもなる、疲労も感じる…。

 人間ってこんな面倒な生活をしなきゃならないものだったんだな…。

 
 そんな面倒さも愛しく思えるほど、―――充実していた。


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