栄光への階段と捨てる覚悟

 あのデートの日以来、愛子から連絡が来ない。

 事故でもしたのだろうか…

 こんなことは初めてだった。

 時間を見つけては携帯をコールしてみるが繋がらないまま2週間が過ぎた。

 
「行くぞ、響」

 「あ、ああ」

 今日はライブ形式のオーディション日。

 大手メジャー会社の定期新人発掘試験に参加していたのだ。

 3曲程披露して控え室で待たされることになった。


 「…響」

 徹が遠慮がちに聞いてきた。

 「愛子と何かあったのか…?」

 「わからない…連絡がとれないんだ」

 愛子が恋しい。

 顔が見たい。

 声が聞きたい。

 近くにいたい。

 苦しかった…

 「響…」


 そのとき、部屋にスーツの男が入ってきた。

 「DayBreakさん、オーディションの結果をお伝えします」


 こうして俺達はプロになった。




 アメリカでレコーディング。


 東京、名古屋、大阪でプロモーション。


 日本中のライブハウスを縦断する長期のツアー。


 DayBreakが商品として様々な人の手が加わり…

 俺達自身も休みの日などないくらい忙しかった。


 あの時…オーディションの結果は合格、但し別に作詞家を用意するという条件だった。

 俺はもちろん、メンバーの誰からも…愛子と連絡が取れなかった。

 そのままアメリカに渡り、帰国後はこうしてプロモーションとツアーに追われている。



 何かあったはずだ。

 じゃなきゃ連絡に出るだろう。

 なにがあったんだ…



 「響さん、お電話です」

 マネージャーに手渡された受話器。

 「…響?」

 受話器から聞こえたのは久しぶりに聞いた優しい声だった。

 「あ、愛子!」

 「久しぶりだネ。バンド大きくなったねぇ。今日のライブ実は見てたんだよ」

 「なに言ってんだ、おまえ。どれだけ心配したと思ってるんだ。どうして連絡しなかった!」

 自分でもわかるくらい声を荒げていた。

 「…あ、あぁ〜ゴメンネ。私、彼氏できたんだ。」

 「は?!」

 「それだけ伝えとこうって思って。そ、それじゃあね」

 それだけ…ホントそれだけ言って電話は切れた。




 悲しいのか…?

 頭の中は真っ白で何も考える事ができなかった。


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