サイレントチルドレン再発

 「ぐふ……ぁ…ぁぁつ」

 ぼたぼたぼたぼた…

 浴室が赤く染まった。

 DayBreakの足の速さを活かしたリリースラッシュが続き俺はここ3ヶ月で90曲ものデモソングを完成させていた。

 各メンバーと一緒にいる時間はデビュー前より確実に減っている。

 スタジオでの練習とアレンジ作り、ライブの時だけだった。

 ほかは全て他の人間の仲介が入る。

 俺は上の人間に作曲作業の早さを見出され今以上にと急かされるようになっていた。


 負けたくはなかった。


 誰にも!

 何にも!

 負けたくなかった。

 その一心でがんばり続けた結果――――――――再び発病した。

 浴室にばらまいた自らの血。

 胃か?腸か?

 赤黒い血はシャワーに流され渦を巻いて消えていく。


 どうでもいい…。

 俺はプロになった。

 夢みた音楽で食っていっている。


 「はははははっ!はははははははははっ」


 笑いが止まらない。



 DayBreakが使用する練習スタジオ。

 徹は危機感を感じていた。

 このままではマズイ…

 「徹!」

 徹同様、早く着いた健太に呼び返した。

 「健太、久しぶりだな」

 「徹、メンバー全員が集まるのは多分今週は今日だけだ。響を止めるぞ」

 …そう、徹と健太は再び悪化しているだろう響の身体に気づいていた。

 「響が早くこればいいが…」

 どれだけ売れようとまだニューフェイスであるDayBreakに会社スタッフ陣に通用するような発言権は与えられなかった。

 響は任された仕事は確実にこなすだろう。

 もちろん他のメンバーもだが…彼には限界がない。

 響の体質を知らないスタッフ陣にはただタフに映っているだけだろう。

 このままでは響の病気は悪化する一方だ。

 愛子を失った響は代わりにあの武器を再び手に入れていた。

 SILENTCHILDREN(サイレントチルドレン)

 最も脳が育つ時期に情というものを知らずに育った響の脳はある箇所だけ完全に欠落していた。

 自律神経―――体調を整え、空腹を伝え、睡眠を促し、休息欲す命令器官。

 一度死にかけた響を助けたのが愛子だった。

 だがその愛子は響のもとから去った。

 理由は徹も健太も知らない。

 これはただ仲間の失恋で片付ける問題でなはい…響の死活問題だった。


 「うぉぉう、久しぶりだねぇ。徹ちゃん健太プン、元気してたかぁい?」

 司がスタジオに入った。

 「久しぶり司、それより響を見なかったか?」

 「なぁにさ?あいつまだ来てねぇの?週1回の練習なんだぜぇ?しっかりやろうよ?」

 こんな悠長なことしてる場合じゃない。

徹と健太は気づかなかった司には言えなかった響の真実を語る覚悟を決めた。


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