「響くんったら、聞いてるの?」

「わるい、また考え事」



  なんか愛子といると考えたくもないことまで考えてる気がする。

 愛子と一緒にいると胸の奥が痛い…。

 愛子の雰囲気を身体が拒むような…そんな感じがする。

再び窓の外に視線を向ける俺に愛子が一方的に話を続ける。

「響くん、そんなだから由美に愛想つかされちゃうんだよ?今からでも遅くないんだから由美に謝っても1回やり直したら?」



  愛子が言う由美とは愛子と徹の級友で、俺と5月まで付き合っていた女だ。

 愛子と同じようにお嬢様だが愛子とは正反対のような性格を持っている。

 プライドの高い由美が「私がフッた」と言ってまわっているようだけど事実は逆で 面倒になった俺が由美の浮気を原因にして別れを切り出したんだ。

 このことは徹以外には誰にも話していない。

 言っても詮無いことだし、陰口を叩かれる原因をわざわざ公表しても面白くない。



  仕方がないので俺は愛子に曖昧な笑顔で生返事だけ返した。



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