ものものしいバッグが数個(1泊するだけでなぜそんな大荷物になる?)を持った愛子が予定通りうちに来た。
「どうぞ。俺以外誰もいないから」
いつものことだ。
親父の顔などもう1ヶ月近く見ていない。
「えへへぇ、ついに来ちゃった」
玄関で屈託のない微笑みでこちらを見る愛子を迎えた。
「ほい、どうぞ」
テーブルに並べた料理。
10年近い自炊生活で料理は一通りできるようになっている。
愛子に手料理を振舞った。
「ん。おいしい。すごいねぇ、響」
「そうかぁ?」
いつもは自分独りだから大したものは作らないが今日はそれなりにがんばった気がする。
テーブルの上に並ぶ、明らかに2人では食べきれない料理の量がそれを物語っていた。
あっちこっちの皿に楽しそうに箸を運びながら愛子は聞いてきた。
「今日はお母さんとお父さんはいないの?」
―――――――――っ!
軽い気持ちで聞いたのだろう…。
ウソをついてもバレそうだから真実で答えた。
「俺、母親いねぇんだわ。父親も…いるのかいないのかよくわからないような感じ」
笑って言ったつもりだった……が、乾いた笑いになってしまったのだろう。
愛子は箸を止めた。
「――――ごめん」
なぜ愛子が謝る?
「いや、いいんだよ。別に大したことじゃないしね。それよりもっと食べろよ。せっかく作ったんだからさ」
「…うん」
愛子の悪い癖だ。
すぐに自分のせいだと思う。
そんなことより愛子には笑っていて欲しい。
「いまデザートもって来てやるよ」